4. Earth, Spectra & Donuts
Summary
Mutation spectrum に関するプレプリントを紹介したのち、雑談として内なる地球平面説論者について話しました。
Starring
イシ、エビ
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- Sasani et al., 2021, A wild-derived antimutator drives germline mutation spectrum differences in a genetically diverse murine family (preprint): 今回紹介したプレプリント。bioRxivにポストされているので誰でも読める。
- Mutation spectrum (pl. spectra): 今回のキーワード。6種類あるDNAの1塩基の変異の起こるの頻度の分布のこと。ここでいう頻度とはある塩基(例えばA)が別のある塩基(例えばT)になる変異が1世代でどのくらいの確率で起きるかのこと。今回は6種類の1塩基変異だけではなく4種類の塩基の前後1塩基ずつのコンテクストを考慮して96種類の変異の確率分布を考えている(例えばAAA>ATAとAAC>ATCはどちらもA>Tだが別々にカウントする)。日本語の情報がほぼない。Wikipediaも情報が乏しいしsubstitution modelsとの違いが不明確。Population geneticsのモデルにこれが組み込まれていないのはたぶん、population geneticsでシミュレーションをするときは配列を直接シミュレートするのではなく変異の場所や数をシミュレートするからだと思う…
- Kelley Harris: ラストオーサー。
- Workshop on population and speciation genomics: イシが2020年1月に参加したpopulation genomicsのワークショップ。チェコの世界遺産の街チェスキークルムロフで隔年開催。
- トランジション(transition): 一塩基変異のうち、ピリミジン間(C/T)、プリン間(A/G)の変異。
- トランスバージョン(transversion): 一塩基変異のうち、ピリミジン(C/T)とプリン(A/G)間の変異。
- Harris & Pritchard, 2017, Rapid evolution of the human mutation spectrum: ヒトの集団間でmutation spectraに差があることをを示した論文。オープンアクセス。本編で紹介したのはFIgure 3A。
- Speidel et al., 2019, A method for genome-wide genealogy estimation for thousands of samples: 「ゲノム上で家系図を作ってどの変異がその木のどこで起きたかを推定する」と説明したもの。本編で言及されているmutation pulseの図はFigure 4a。bioRxivにもプレプリントがポストされている。
- 古代DNA
- ネアンデルタール人ゲノムプロジェクト: これに関係した書籍である「ネアンデルタール人は私たちと交配した」はエビのオススメでもある。著者の Svante Pääbo は OIST に籍がある (https://groups.oist.jp/heg/svante-paeaebo)。
- Ancient genomics: 古代DNAのサンプルを使ってpopulation genomicsをするというのもされ始めている… e.g. Bergström et al., 2020, Origins and genetic legacy of prehistoric dogs
- Inbreeding (近親交配): 親戚同士の掛け合わせを繰り返すことで遺伝的多型を減らしていくプロセス。育種などでselective breedingの方法として用いられてきた。実験動物でも純系を作る手段として用いられる。
- Recombinant inbred lines: 2つの純系の掛け合わせの子孫から作ったinbred linesのこと。純系間の遺伝的な違いをマーカーにして染色体上のどこで組み換えが起きたかがわかり、QTL mappingなどで用いられる。マウスの他にハエや線虫、酵母などでも一般的。今回の研究では染色体の一部領域がどちらの純系由来かがわかった上でその純系と異なる塩基は掛け合わせ以降におきたde novoな変異だとわかることを用いている。
- DBA/2J: 今回紹介した研究で用いられたBxDクロスの「Dライン」
- C57BL/6J: 今回紹介した研究で用いられたBxDクロスの「Bライン」
- Diploid (倍数体/二倍体): ヒトのように2セットのゲノムを持っているということ。本編とは関係ないが、イシが発した「diploidなので」というフレーズはpopulation geneticsでは頻出(時間, mutation rate, recombination rateなどが集団内の遺伝子のコピー数でスケールされるため、diploidではいろいろなパラメータがhaploidの2倍になっている)。
- ハプロタイプ(haplotype)
- 復帰変異: 入った変異と逆の変異によってancestralのalleleに戻ること。
- Molecular clock (分子時計): 進化遺伝学の最も基本的な解析方法で、DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列に生じる変異のはやさと配列間の差から生物が分岐してからの時間を推定する方法。分岐してからの時間が長いほど差が大きいはずという前提がある。
- CpGアイランド
- CpGのメチレーションとC-to-T変異: CpGサイトのシトシンはメチル化されて5-メチルシトシンになる。シトシンはデアミネーションされるとウラシルになりリペアされるが、5-メチルシトシンはデアミネーションされるとチミンになるので、C-to-T mutationはCpGかどうかで別々に見る必要がある。
- コドン: 核酸とアミノ酸の対応関係の核酸側のユニットのこと。核酸3塩基が1アミノ酸をコードしている。遺伝暗号解読についてはResearchat.fm episode 7も聴いてください。
- MUTYH: Base-excision pathwayによるDNAリペアに関わるDNA glycosylase
- 野生由来マウス: モデル種と近縁種の野生由来の多型のリソースはマウスでも整いつつあるが、シロイヌナズナや線虫などでかなり豊富な印象。
- 地球平面説
- ビハインド・ザ・カーブ –地球平面説–: Netflix にある地球平面説を信じる人たちについてのドキュメンタリー映画。
- ポアンカレ予想: ミレニアム懸賞問題のうち唯一解決済み。NHK のドキュメンタリー番組が歴史的な背景や人物像をわかりやすくまとめている。
- ドラゴンクエストのドーナツ惑星説
- ゼルダの伝説 Breath of the Wild
- エラトステネス: 地球の大きさを初めて測定した人物。夏至にシエネで南中高度が90度になることを利用して夏至のアレクサンドリアでの南中高度とシエネーアレクサンドリア間の距離から地球の大きさを推定した。
Editorial notes
- 地面に太陽や月がめり込むのタイプのフラットアースでSFの設定を考えるのが結構面白い(イシ)
- mutation spectrum についてとても勉強になった (エビ)
- 収録日: 2021.03.27
- 編集者: イシ